デジタル化と本の市場について=ケータイ小説から文庫へ
紙の本の読者層には、クレジットカードを持たない層も多い。それがデジタルを書籍することで売れ行きを伸ばす要因かもしれない。本ケータイ小説の多くは書籍化する際、横書きで出していた。『王様ゲーム』は縦書きで、書店では一般文芸の棚に並ぶようなつくりで刊行。双葉社の宮澤震氏は「営業と相談して、山田悠介の隣に置かれるように、という戦略を立てました」――ふだん本を読まない10代男女を狙った戦略は的中した。『王様ゲーム』は単行本5冊と文庫5冊合わせて186万部、コミックスは第1シリーズが全5巻で220万部、新シリーズ「終極」が1巻目で25万部のヒット作に成長、映画化もされた。
宮澤氏はYoshiや『恋空』に代表される、いわゆるケータイ小説とそのコミカライズを仕掛けてきた編集者。その後、小説投稿プラットフォーム「モバゲータウン」にあった金沢伸明「王様ゲーム」と出会う。ふだん本を読まない10代男女を狙って山田悠介の隣に置かれる戦略を立てた」。 現在はモバゲータウンの流れを汲むネット小説プラットフォーム「E★エブリスタ」の人気作品の書籍化、コミカライズを手がけている。
岡田伸一『僕と23人の奴隷』はコミカライズが1巻目にして15万部を突破するなど、『王様ゲーム』に続く作品も現れている。メインの読者層は中高生男女。必ずしもネットで読んでいた層が書籍や漫画を買っているのではないという。
作品を選ぶときには、PV(アクセス数)はもちろん、自身で中身を読んで判断している。基準は「わかりやすくて、エグいもの」。大人向けの本格ミステリーなどでは、既存の作家にはかなわない。だから、その人たちは絶対に書かないが、しかし本を読まない中高生は食いつきそうなものを狙う。
「ケータイ小説と違ってネット小説は『ブーム』ではないと思います。書店に“ネット小説の棚”はありませんから。単品勝負をしているうちはブームじゃないですよね。逆に言えば、『王様ゲーム』『僕と23人の奴隷』に続く作品を“セット売り”して仕掛けていかなきゃ、と準備しているところです」
ネット小説を刊行する双葉文庫の文庫内新レーベルは、今年中に始動する見込みである。
資料 【新文化」2013年2月21日号(飯田一史・ライター)】
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