「郵便受け」 北川加奈子
郵便受け 北川加奈子
郵便受けがカタコト鳴った/私は、病人、夫は老人/訪う人は誰もいない
静かな夜更け/木々の葉擦れもないのに/なんか懐かしい夜の音
ずうーと辿れば/田舎の冬の雪の夜/誰か来ぬかと/闇のしじ間で待って居た時/恋に激しく燃えた頃/郵便受けは生きて居た/まるで尊い使者を迎える箱に見えた/それはポストの様に/赤くなって待っていた
今は淋し気なノックの音/小さくカタコトと鳴る/木立のざわめきか 小雀の足音の様に/耳もとで震えながら微かに聞こえる
文芸同人誌「砂」第122号より(2013年5月 東京都「砂の会」)
紹介者・江素瑛(詩人回廊)
期待と失望、喜びとがっかり、一日何回も階段を下りて郵便受けを覗いて行くマンション暮らしの人間は、昔には多かった一軒家の身近な郵便受けのカタコト鳴る音を知っているでしょうか。待っている相手がいれば時の音。その淋しく甘酸っぱい音、躍るような音。
病床と郵便受け、巧くマッチしたテーマで、作者は、あまり身を動かすことないかも、微かな音にも耳を澄ませ、こころを活発に動かせ、遠い昔の時に戻り、そこで豊かな詩の世界を持っているのです。
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