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2013年6月 8日 (土)

文芸同人誌「コブタン」№.36(札幌市)

【評論「近現代アイヌ文学史稿」須田茂」
 アイヌ文学史とあるが、民族としての存在にかかわる歴史の書の系統であろう。日本人のアイヌに対するイメージはエキゾチックものである。
 おもいつくままに挙げれば歌謡曲では、伊藤久雄「イヨマンテの夜」(菊田一夫作詞)、織井茂子「黒百合の歌」(同)があり、文学では「森と湖の森」武田泰淳。コミックでは「カムイ伝」などがある。「カムイ」は、アイヌ語で神格を有する高位の霊的存在のことで、そのイメージだけで、どれもその民族の文化の実態からは大きく乖離している。
 とにかく本評論は、労作で読むのに大変だが、なかに加藤周一の「時代精神の最大の担い手が、常に詩人であり小説家とはかぎらない」という意見の引用がある。たしかにそうで、文字化されない詩情や音楽の音調のなかにも、手がかりがあることを本稿が示している。
 【「鳩摩羅什の足跡を訪ねる旅」須貝光夫】
 インド仏教典の翻訳300余巻を残したとされる鳩摩羅什の遺跡の現状が、写真入りで報告されている。そうなっているのか、と興味深く読んだ。シルクロードの住民は民度が玉そうだが、共産党政府との関係はどうなのふぁろう。作者は曹洞宗の得度をした僧侶であるという。自分は父親の代から浄土真宗の寺の檀家とされている。教えによると、自分たちは阿弥陀さまに救われて浄土にいるのに、目がくらんでそれを自覚していない存在だという。だから何もしないで、そのうちに無明から抜け出る機会がくるだろうと待っているだけである。
 アイヌの資料調査や本稿を読むと国会図書館で保存するためのナンバーをもらえそうな気がする。
 札幌の琴似といえば、若い頃に小売業者探訪記を書いていたころ訪れたことがある。その時に、九州で倒産し夜逃げして、北海道で再起した人が少なくないようだった。また、沖縄出身とされる人が、自分の祖父は沖縄からアラスカに渡り、その中途は不明で、その後カムチャッカ半島からまた沖縄にもどり、さらに神戸を経て北海道にきたという人がいた。その人の顔つきが瞳が青みがかっていて、彫りが深く色白であった。今でも、なんとなく、沖縄とアイヌとは関係があるような気がしている。
発行所=〒001―0911札幌市北区新琴似十一条7-2-8、コブタン文学会

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コメント

伊藤さん、須田茂さんの「アイヌ文学史」の紹介嬉しく思います。ありがとうございます。
私は、彼の仕事大いに買ってます。
アイヌ文学の在野の研究者は最近めっきり減少していて、貴重な資料なども埋もれる危機に直面しているとき、まだ四十代の彼がサラリーマンやりながら、こつこつ資料集めをしていることに感動を新たにしているところで、大いに励まして上げたいものです。

コブタンの主宰者須貝光夫さんのインドものは、足掛け20年、数回のインド旅行の成果です。それも一人徒歩と汽車、バスを乗り継ぐ長期旅行の足で歩いた成果です。もともとアイヌ文学の研究者として名のある方ですが、高校の歴史の教諭として古代の遺跡保存にも尽力された経歴の方。

この二人の稀有の研究者の作品を取り上げてくださったこと、我がことを抜きに嬉しいことでした。(・∀・)イイ!

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2013年6月13日 (木) 01時22分

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