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2013年5月18日 (土)

「光年のためらい」石塚邦夫

 この詩は、「コブタン」NO.36号に掲載されている。連作をうたって多彩に並べられている。「コブタン」36号には、須田茂・近現代アイヌ文学史稿(一)がある。文芸同志会は、会の発足前から市民外交センターへ毎月300円(当時のカフェのコーヒー料金)を寄付をしている。センターは国連の少数民族サポートNPOの認定を受け、アイヌや台湾原住民などへの支援関与をしている。そこで、興味深く読んでみようと思っており、また須貝光夫「鳩摩羅什の足跡を訪ねる旅」がある。ゆっくり読もうと思っていた。
 たまたた石塚邦夫氏のコメントがあったので、とりあえず、詩について紹介する気になった。「光年のためらい」は――冬/の/日の海は荒れているか――ではじまり地上の光景から地球空間的なイメージを展開している。それに続くのが「方舟の軌道を泳ぐ魚」で、宇宙世界を俯瞰するイメージを語り、その支配者としての人間界における神への存在性を問おうとしている。よいイメージの展開がなされている。その他「朝の旗」、「川」、「悲しみの声」がある。良質な言葉と視点の広大さによって、ロマンチストであることがわかる。
 この中で「川」という作品では、川を見下ろす男と女の光景を、言葉の繰り返しで素朴に表現しており、日本語の伝統的な言葉の世界でさりげない表現センスが発揮されている。川を見ている男や女、それ見ている作者も、理由も理屈もなく見ているだけのこと。それはしかし、確実に事実的なもので、人間性の本質がそこにあるのかも知れないのだ。
 先日、大江健三郎氏と本谷有希子氏の対談を聴いた時に、大江氏は、詩を賞の対象になぜ加えないのか、という質問に「自分は小説のなかに、今では古臭いよ評される詩を入れるかも知れないが……」と述べた。これは現代詩の多様性、難解性のなかで、伝達性を失っている現状に傍観的にならざる得ない、物語作家の立場を示しているように思えた。
 石塚氏の詩作品は、そうした難解性に逃れたり、まぎれたりすることはしていない。

紹介者・北一郎(「詩人回廊」)

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コメント

自分の持っている本、意外に詩関係のが多いのです。
吉田健一訳の「エリオット全集」「鮎川信夫全集」「吉本隆明全集」・・・旭川の「ときわ短歌」で選者やってる割には短歌の全集は皆無ということです。

小説の全集は「ドストエフスキー全集」「室生犀星全集」くらいで・・smile

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2013年5月24日 (金) 13時33分

「コブタン」の連作詩の感想ありがとうございます。

「光年のためらい」と題して6編最近作掲載したのですが、好意的に読んでくださって嬉しく思います。
問題作はむしろ須田茂さんの「アイヌ文学史」であって、これはこれまでだれも手がけなかったもの。今後の連作が反響を呼ぶと思います。須田さんも喜ぶと思います。アイヌ問題研究者として有名な須貝光夫さんの「インド紀行」は三百枚の労作。これも圧巻です。

ありがとうございました。

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2013年5月20日 (月) 00時38分

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