文芸同人誌「淡路島文学」第8号(洲本市)
淡路島ゆかりの地域文芸同人誌である。錚々たる面々というか、実績のあるひとたちの執筆陣。発行者の北原文夫氏の第7号に掲載作品「秋彼岸」が、「季刊文科」に転載された。同氏が今号の編集後記に、掲載作品の簡単な紹介をしている。親切でいいですね。
そのなかで、同人のお孫さんで高校2年生の作品があるというので、読んでみた。
【「水車小屋」鈴木航】
水車が好きで見たいという七歳の弟のために、彩子は弟の手を引いて川の上流に向かう。すると、どこからか老婆が現れ、やはり水車が好きという。弟の水車が好きという一途な心を大切にしなさい、とアドバイスしてくれる。帰りに気がついてみると、公園の時計は四時なのに、彩子の腕時計は六時を指している。タイムスリップの区域に入っていたらしいーーという話。弟の表現で行間に愛の満ちた良い調子があって、清々しい詩的散文である。この世代にしては、むずかしい理屈を言わないところは、詩人体質なのであろう。
【「下宿を変わる話」宇津木洋】
タイトルの通り、学生専門の下宿にいるエヌ君が、就職活動しはじめて、下宿を出る羽目になり、お寺に下宿を変えるまでのさまざまな出来事と、その気分を描く。小説というより、住民の雰囲気や風物をのびのびとした筆致で描く散文。散文小説主義をもつ私の好みかも知れないが、へんに作った小説より文学的である。とくに終章の崖崩れの描写などは、破壊の危機感とその風景の美の表現でじつに何かを感じさせる好いものがある。
そのほかの作品は北原文夫氏が記した編集後記からの紹介ですーー。
【大鐘稔彦「父と子」】
作者は医師・作家・歌人。ベストセラー「孤高のメス」(幻冬舎)の作者。新しい同人として歓迎し、「父と子」を巻頭にした。平家物語に造詣の深い方だが、平家の武士武将瀬尾太郎と小太郎父子を冷静な目で捉え、武士のありようを歴史のなかに位置づける筆力はさすがである。
【植木寛「最前線の軍医」】
激戦のルソン島に樋口軍医のような人がいたのかと驚かされる。宣布医療のためであるが、現地住民の治療にあたって住民の信頼を得、米軍のパイロットを密かに治療する。兵団転戦のおり動けない傷病兵に自爆用手榴弾が配られるが、自爆をするな、捕虜になって手当てを受けよと説得し、洞窟入り口に赤十字のしるしを何枚も掲げ、アメリカ軍に手当の依頼を英文で書いて本体へ追いつこうとする描写は、はらはらとさせながらもさわやかである。(以下略)
発行所=〒656-0016兵庫県洲本市下内膳272-2、北原方、淡路島文学同人会。
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