著者メッセージ: 川上未映子さん 『愛の夢とか』
小説を書き始めて5年がまるっと終わり、まだ5年しか経ってないの、や、もう5年も経ってしまったの、という気持ちと、その両方が混ざりあった感覚でいるこの春に、はじめての短編小説集を刊行することになりました。
何も起こらなかった今日。何も起こらない明日。おととしの三月の天変地異を経てさえ、あるいは個人的な、取り返しのつかない大きな出来事を体験したとしても、見ようと思えば日常はそんな気だるさと直線に塗りつぶされています。絶望にも、何もなさにも、気がつけばそんなのっぺりとした直線がひしめいてしまいます。けれどそんな中にも、何かが動く、ドライブのかかる瞬間があって、たぶん、その多くはとてもささやかなことで、他人にとっても、そして自分にとっても、おそらくはさしたる価値もないようなことばかり。そしてまた、少しの時間が経てばいつもの日常の運動のなかへもどってゆくのだけれど、でもそのとき何かが動いたことはたしかなことで、その瞬間の詳細を、手触りを、できるだけたくさんつくりたいのだなと、そして、読みたいたいのだなと、あらためてそう思い、「愛の夢とか」はそんな瞬間を7つの物語に光らせた、一冊になりました。 (「本」2013年4月号より抜粋)-講談社『BOOK倶楽部メール』 2013年4月1日号より。.
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