文芸同人誌「婦人文芸」93号(東京)
【「まだたりない悲しみ」北村順子】
同人誌にはめずらしいた登場人物ごとの視点移動を多用した物語。構成にも気を配って、創作者としての意欲が伝わってくる。木村より子は離婚して、独身の年配者。さびしく人恋しい心を隠しているか、意識していない。堀部健介という男は、サラリーマンをしていたが、先輩社員が事業を起こすと誘われるが、結果的に出資金を騙しとられた形になり、人間不信をかかえて浄水器のセールスをしている。彼が女性関係を避けるために結婚しているように指輪を、周囲に家庭のあるように真に迫った架空の話をするのが面白い。さらに夫のある有閑婦人と密かに情を通じてもいる。
3人の人物の登場で問題提起があり、それにどういう答えをだすか、その答え方を読者は味わうわけだが、この作品では3人の触れ合いの思い込みを別れというはかなさで、答えをだしているのに少々驚かされた。しかし、読者としては納得されられ、説得されたので、やはり巧みな筋運びという感じがする。
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