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2013年4月25日 (木)

文芸同人誌 「檣 マスト」第32号(京都府津川市)

【「そんなことは百も承知のはずだったけど」西野小枝子】
 律子と千尋は7年間同僚として働いた仲の良い教師仲間であった。千尋より二年早く退職した律子は、その後の女友達としての交際を続ける。旅行をしたり、お互いの娘の話や世相の政治談話など楽しく良い関係が続く。そのなかで千尋が難病の悪質な癌になってしまう。千尋の亡くなるまでの無念さや、律子のかけがえのない友人を失った喪失感が素直に描かれている。てらいのない身辺雑記的な、同人誌ならでは作風の読み物であるが、よくあるエピソードの細部が生きており、作者の気持ちが良く伝わってくる。ただ、これで文芸かというと、生活日誌と文芸との中間小説の感じがする。同人誌には多いパターン。
【「カンナの恋」眉山葉子】
 未亡人となっているカンナという中年女性が、自由さと人恋しさからか、漠然とした欲望を潜在させている。彼女に四人の家庭持ちの女友達と交際があって、お互いに潜在的な欲望を満たす話をし合ったりする。競争意識にも駆られて、カンナは粋な男性と交際を深めていくのだが……。女性のエロスへの欲求を軸に、小説となる場面や心理を描くのが巧みで、読者を惹きつける勧どころを心得ている。天性のストーリーテラーの才気を備えているように思えた。どんな作者であろうと、興味が湧いてあとがきを読むと、周囲の意見を取り入れ三年かけたという。そうなのかと思ったが、周囲の意見を素直に取り入れられ、自己流に難なく消化するのは、本来の創作に対する喜びをもっているからで、やはりそれは才能というべきであろう。職業作家なら当然のことであるが…。ラストは唐突に終わっているように読めるが、それを作者が気にしていないというのが良い。小説の構造上、3分の2が読みどころで、終わりのパターンは限られたものに決まっているからである。
 発行所=〒619-1127木津川市南加茂台14-8-1、大家方。マストの会。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一。

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