同人誌「孤帆」(こはん)vol.19
【「ネコババア」奥端秀彰】
少ない年金生活でアパート住まいの高齢者、美津子は猫に餌をやっている。同じアパートに3年前から住んでいる30代の男が近所迷惑と文句をいう。美津子は男が気にいらず復讐心や殺意まで抱く。美津子の社会的な存在である男への悪意がやがて自分に向かい、それが刃物三昧にまで発展する。
老婆も男もなんとなく、世間での存在意義を失った人間のように描く。それは現代という時代の気配でもある。宙ぶらりんで、誰もが自己存在の定位置が見えない時代の空気を切り取った短編のようだ。
【「道行く」淘山竜子】
高之という喫茶店経営者のやりくりを通して世相の一面を描くーーというように読める。商売の大変さというか、商売に向き不向きの人柄の様子が、仕事ぶりが細かく描かれているので、それなりに現代商店の事情が読み取れる。小説としては、風俗小説的な側面が強いが、心理的な説明とストーリーを結びつける構造づくりが複雑なのか手薄なのか、小説の登場人物のイメージよりも、作者自身の倦怠感や閉そく感が随所ににじみ出ている感じだと、思った。
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