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2013年2月 4日 (月)

同人誌「仙台文学」第81号(仙台市)

【「後三年合戦最後の日」宇津志勇三】
 ていねいに書かれた歴史小説である。1087年ころになると源氏勢力が東北へ勢力をのばしはじめた。その手はじめが清原勢力との連携であったろう。そのなかで清原勢に溝ができる。これは源氏勢には有利な材料となる。この源氏勢への北への進出を強めたのが「後三年合戦」である。これが単なる「合戦」か、もっと大きな「役」になるのか微妙なところだが、この作品によると、先代の合戦で郎党が逃げて、他所に逃げていたのが、戻ってきたとあるので、これは武士による合戦であったらしい。地味ではあるが粘り強い筆遣いで読ませる。
【「阿武隈の風(後篇)」高橋道子】
 東日本大震災の津波と福島第一原発事故の現場を舞台に、その現実を小説化したもの。単なる詠嘆に終わらず小説化することが市民の間に広がることを歓迎したい。
【「泣き笑い年末始」安久澤連】
 正月過ぎての突然の便秘やなにやら、体調の異変に対応するさまをユーモラスに語る。読んでいて人ごとではない感じだ。身体の調子が加齢によって思わぬ変調をきたすひとには、必読の書。わたしもある日突然、思わぬ便秘と腹痛、圧迫感に苦しみ、医師に相談したところ「よくあることですよ」と笑って薬をくれたが、よくあるからと言って、自分が楽になるわけではない。腹をたてたが、この作者はわたしより先輩で、腹が据わっている。次々と医師がさし出す課題を乗り越えてしまう。尊敬するしかない。こちらは検診など受けようものなら、つぎつぎと病気状態を発見され、検査の予約で人生のスケジュールが埋まってしまうと敬遠して逃げている。それがここでは、笑いを入れて楽しくない話を楽しく読ませる。
【「芥川龍之介詩1編の謎『沙羅の花』凋落」牛島富美二】
 芥川龍之介が室生犀星宛ての手紙に詩を書いているという。これは興味深いので作品からまた引用させてもらう。
    嘆きはよしやつきずとも
    君につたへむすべもがな
    越しのやまかぜふき晴るる
    あまつそらには雲もなし
 作者はこれは森鴎外の詩「沙羅の木」の影響があるのではないかと推察している。
    褐色の根府川石に
    白き花はたと落ちたり
    ありとしも青葉がくれに
    みえざりしさらの木のはな
 牛島氏は芥川が沙羅の木に「凋落」のイメージを込めていると解説。その後、芥川が美貌の歌人で人妻の秀しげ子と不倫の恋との関連を述べている。そして女心に悩まされる現実も示す。沙羅に関する詩では、鴎外の方が冷静で出来が良い。芥川のは犀星もそれほど褒めなかったのではないか。ただ、犀星が芥川の恋の悩みを理解してれば別であるが。
【「詩本論」酒谷博之】 
 詩論というのは、誰が説いても面白いものだが、情熱のある論調で続きが楽しみ。「資本論」のように長くなるのか。もっとも資本論は経済学批判であるので、詩学批判になればさらに興味深いのでは。
発行所=〒982―7891仙台市泉区向陽台4-3-20、牛島方「仙台文学会」。
(紹介者「詩人回廊」伊藤昭一)

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