雑誌「文芸思潮」第49号(2013年冬)アジア文化社から
本号の特集「イラン文学と詩」が独自の持ち味を出している。10年以上前にわたしは大森のシネコンでたまたま少年がお使いに行って帰ってくる話の映画をみた。イラン映画の週替わり特集の日が続いたので、続けて見にいた記憶がある。台詞が少なく、イメージだけで理屈っぽくないのが大変に刺激になったのを覚えている。地に付いた感覚の世界を定着させていた。
本誌では天才女性詩人で若くして交通事故死したという詩人の「窓」(ファルグール・ファッロフザード)なども、人間社会の生活の束縛から解放を望むような普遍性をもつ。小設「詩人の大群」(メディフィ・アハヴァーネ=サーレス)などは風刺と皮肉を効かせた散文にも読める。結局、詩や小説は、思考を経てそれをまとめるので、伝わるものに異端感はない。
解説によるとイランは、詩が日常的に政治家や事業家に使われているそうである。何か宗教的、政治的な圧力のなかで培われた自由な精神の隠喩として発達してきたのかもしれない。
現代日本では、ある見えないような強い力があるのが見えない。それに気付かずにいるための自分自身の相対的な姿が見えない。そういう問題意識があったので、それらを明確にできないなりに、じわじわと探し当てる小説や散文へのヒントになった。結局、問題意識がないところに、視点というのは生まれないのである。
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コメント
伊藤 さま
「文芸思潮」の紹介、ありがとうございます。
五十嵐編集長の多彩なアイデアにおどろいています。社会的なテーマが文芸思潮の特質になりそうです。
同人誌は高齢化社会とともに増えてゆく気配です。六十歳代また七十歳代の書き手は今回の黒田さんの芥川賞受賞が刺激になっているように思えます。
私もその流れに沿って同人誌の推奨に励み、すぐれた書き手を紹介してゆくつもりです。
投稿: 東谷貞夫 | 2013年2月21日 (木) 11時03分