小説で学んだ人生(下) 川合清二
さて、この辺でテーマである「花盛りの小説教室」に移りたいと思います。
以上は前置きです。
小説の流れとして、いちばん顕著なのは出版社──雑誌社の編集部の権力の増大があります。権力というと語弊があるかもしれません。支配力というか、影響力といったほうがいいかもしれません。
小説が売れなくなった。
これが最大の理由でしょう。
一方で出版社はますます肥大し、15年まえの講談社でグループ3万人と言っていました。電機業界ならば、さしづめ日立か東芝か、自動車業界ならばトヨタか日産か、といったところでしょうか。既にマンモス企業です。当時、カルチャーセンターに講演に来た重役は、
「皆さん売れる小説を書いてください。そうでないと、うちはやってゆけません。」印象的な言葉、──売れる条件として、強調したのが
「一に題材、二にストーリー、三、四、がなくて、五に文章という言葉です。」
つい先日の金曜日、カルチャーセンターの教室に来た協会の先生は、
「皆さんはこれからますます世に出にくくなるでしょう」
と宣告しています。
何故なら、ここ一、二年のうちに再販制度が変わり、本の書店買取制度が敷かれる可能性が高いだろうからというのです。
つまり、いまは書店は軒を貸しているだけで、売れない本は出版社に返していました。
返本の山はありましたが、一応可能性を試してはもらえたのです。書店にリスクはありません。いや、リスクがないとは言えないかもしれません。売れない本が場所を占拠するわけですから。
法律の改正でそれがなくなれば、書店は売れそうな本を選んで、買い取らなければなりません。
誰が、有名作家の本より、あなた方、無名の、海のものとも山のものとも分らない人の本を、買って並べますか。すでに売れている人が断然有利になる。
もっともです。
にもかかわらず、教室は満員で八十人ちかい生徒が居ます。六本木のシナリオ教室でも満員の盛況と言うことです。
熱気が溢れています。
向上心が第三者にまで影響を及ぼしています。月謝は決して安くありません。砂の会費の約十倍します。
話はとびますが、文化の日に著名作家の米寿の祝いの会がありました。
元気の良いのは農民文学の方たちで、文学の道のみを研鑽されている方は、総じて弱々しい。
健康と活力は文学の源です。
そして、面白さは、文学の大事な要素であることを認識しなくてはなりません。広い意味での面白さが文学を生き続けさせる、と信じます。
(2006年「砂の会」創作研究会講話「小説にも顔がある」文芸同志会資料より)
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コメント
大学の文学部、特に国文は絶滅寸前の不人気ですが、巷の文章教室、小説の書き方教室は中高年族で満員の熱気という両極端。
象徴的ですね。
投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2013年3月 1日 (金) 23時18分