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2013年2月 1日 (金)

文芸時評1月(東京新聞1月31日付)沼野充義氏

黒川創「暗殺者たち」漱石「韓満所感」を収録/大震災へのメッセージ
≪対象作品≫黒川創「暗殺者たち」(「新潮」)/いとうせいこう「想像ラジオ」(「文藝」春季号)/「12星座小説集」・原田ひ香「クラシックカー」/丹下健太「サタデーダライバー」/藤野可織「美人は気合い」。
          ☆
 このなかで、いとうせいこう「想像ラジオ」は、死者が東日本大震災・津波を実況中継する長編小説だそうである。近年、死者が死んでいることを知らなかったり、死んでも語りを続ける小説が増えてきていた。当会の「詩人回廊」山川豊太郎の「都市の屑屋」も語り手のぼくは死んでいる。
 昔は、主人公が最後に死ぬのは物語を終わらすためだった。ところが主人公が死んでも物語は終わらないという事実が、発想のなかに生まれてきて、その意識がじわじわ浸透してきた時に、それを不自然でなく受け止めるようになる。小説が現実的な事実のつながりから飛躍して、詩的世界を展開することが奇異ではなくなったということだ。
 表現もその時代の意識を知りながら話を構築することがないと、その時代の人からはどうでもいい話になってしまう可能性がある。
 ゴッホの絵は、その時代には、見ると気持ちの悪くなる絵で買い手がつかなかった。しかし、いまは気持ちの悪い絵と感じる人はいないであろう。時代は進歩前進するとは限らないが、変化はするのである。我々は変化する時代に常に遅れる。それは当然なことで、それを認めまいとするのは、事実に反することを信じたがる思い込みである。

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