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2012年12月30日 (日)

詩の紹介 「風葬」 岡部淳太郎

風葬   岡部淳太郎

昨日のかたちで歩いてゆくと/斃たれた木が道のそばに転がっていて/腐っている/地虫が樹皮を這い/その日の糧をたくわえている/木のそばには枯葉が散り敷かれ/頭上の空は高く/かげっている/どこか遠くて揺れているものがあり/そのうごきが波のように大気に伝わると/いく人もの懐かしい顔が思い出され/いまだここに留っている身が/あふれそうになる/何かにつかまりたいと思っても/何もなく/転がっている木や/その他の斃れているもの/斃れそうなものが/浮かび上がってくる/どこまでも遠い空の/雲のすきまから/小さな風が吹いてきて/ひとつの声のように/耳元でささやく/その風が通りすぎた時やっとひとつの葬いが終わったことを知る
(季刊「詩の現代」3号 より 2012年12 群馬県・詩の現代の会Ⅱ)

紹介者・江素瑛(詩人回廊) 樹木は神聖な存在です。「根幹」があり「枝葉末節」という言葉が親しい。人生そのものを樹木に見いだします。「昨日のかたちで歩いてゆくと」なにもかも過去型の情景であると出だしが暗示しているような気がします。
しかし、小さな風が吹いてきて、その風が通りすぎて、斃れるものを撫で、静かに眠らせる同時、秘かに眠っていた新芽の目を覚ませ、ひとつの風葬が終わってひとつの新しい命が始まり、希望と期待があります。

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