詩の紹介 生きる 谷岡佐江子
生きる 谷岡佐江子
蚊が耳のそばで鳴く/つかもうとすると/四月の蚊は/へなへな飛んで逃げる/また寄ってきて/耳のそばで鳴く/蚊一匹で眠れない
ネパールへ/旅したとき/ガイドの少年が/体じゅう 蚊に刺されながら/熟睡していた
生物学では/心臓が十五億回打つと寿命だという/人間では四十一歳である/いま この国の女性の平均寿命は八十六歳に
母のひとりごとを思い出す/ 「まだこうやって長生きしていようというんだから/ 困ったもんだ/ さっさと邪魔になってないで/ あれしてしまえばいいんだけど/ なかなか寿命があれしてくれない/ 小さいころから丈夫だっだから/ だめなんだね」
神様の落し物のような/母のひとりごと
蚊一匹で 眠れない/わたしの 生きる
(地下水204 より 2012,年8月 横浜市・横浜詩好会 )
紹介者・江素瑛(詩人回廊)
蚊は植物の汁で生きることができますが、繁殖期のメスの蚊は動物の血を吸う、卵を作るため。夜中で耳もとにしつこく鳴くメス蚊ほど嫌なものはないでしょう。蚊一匹で眠れない夜に、なぜか母の思い出が頭に響く。母のように長寿でいることに、母の気持ちが身に沁みる作者なのです。
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