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2012年12月 9日 (日)

「文芸思潮」第47号・五十嵐勉氏アウシュビッツ訪問企画を読む

 雑誌「文芸思潮」の発行者である作家・五十嵐勉氏が47号でポーランド・アウシュビッツ国立博物館を訪ね、その関連資料と同館公式通訳・中谷剛氏へのインタビュー記事を掲載している。≪参照:文芸思潮
 本誌については東京新聞のコラムにも取り上げられている。本誌で公募している各種文芸賞の応募者数をみても、日本の文芸文化の裾野の拡大強化に貢献していて、定着していることがわかる。
「文芸思潮」=アジア文化社の五十嵐氏の姿勢は当初から、戦争とその暴力装置を生みだす人間精神の追求で一貫しているように見える。その奥に作家兼編集者としての冷徹にも見える、孤独で強靭な精神が読める気がする。その厳しい視線と同人誌というある種の自己表現の拡張への甘いロマンの両立というアンバランスがいかにも現代的な精彩を放っている。
今号では、ルドルフ・ヘスの回想録の一部、ヘンリー・スチムソン「原爆投下の決断」、カミユの原爆投下への意見などが採録され、五十嵐イズムが発揮されてて、大手出版社の文芸誌とは一線を画した企画が光る。
 たまたま亡くなった同人誌仲間の作品資料を点検整理していたら、普段の作風とは異なるえらく難解な閉塞的な作品があった。その原稿の「私」という呼称の脇に鉛筆でヘスとかルドルフという文字があり、それが幽閉された情況のヘスの心理を描いたものらしいと思いついたばかりのところ。おそらく「私」という呼称でそれがヘスのこととどこまでわかるようにするか、それとも誰ともわかない様な表現でも、わかる人はひとはわかるであろう、と考えた痕跡ではないかと感じた。戦後しばらくの間なら、それは「私」でもヘスのこととわかったであろうが、おそらく後年になって時代の変遷でヘスと明記しないと理解されないと考えたのではないか。そこへこの雑誌の記事で、感慨がひとしおであった。

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コメント

「文芸思潮」の編集人である五十嵐勉さんは硬骨の文学者で、私は高く買ってます。
前号のアウシュビッツの企画は力がはいってましたね。
圧巻でした。

投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2012年12月 9日 (日) 22時09分

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