同人誌「創」第7号(名古屋市)
本誌は、栄中日文化センター「小説を創る」教室編集とある。年に1回の発行だが、みっちり詰まった作品集。それぞれ自由闊達に書いてあるので、ぱらぱらと目についたものを拾い読み。このとき目が止まるものを自分は字面でよむと称している。以前は、商業読み物雑誌で人気作家の書いたものは、字面の感じでわかったものだが、最近は読者世代のちがいから、その見分けがつかなくなった。読者層が多様化したので、全体的な共通性はみつけづらいようだ。
【掌編「わら団子」本興寺更】
「食うものはわら団子」しかなかったと苦労話をする父親に連れられ10歳で料理屋に奉公に出される。つらいからと言って家に戻っても追い返させられるだけだ。しかし、父親はその息子に影ながら支援の手をさし述べていた。短いなかで人情話にまとめているのに感心した。
【掌編「ゲームメーカー」卯月蓉】
大学生がアルバイトでゲームのプログラムを請け負っている。そこに戦争のシミュレーションの依頼があったので、力作をものにして満足して送る。ある日、テレビのニュースを見ると、どこかの国で戦争が起きた。みると、自分の作ったシュミュレーション戦場がそこにあった。いかにもありそうで、(ありえないか)面白い。
【掌編「ゴミ屋敷」辻井まゆみ】
ゴミをためる人の性癖とそれを片づけに来る善意の隣人がいて、ゴミをめぐる話が続く。結局ゴミを片付ける人が行方不明になってみると、その人の家がゴミの山であった。人間のゴミを出す存在として描き、その矛盾した本質に迫りそうな奇妙な傑作。
【「運命と作為」伊藤良彦】
年金生活者の夫婦の病気の話からはじまり、夫妻の病気の入院、手術の過程がだらだらと長く書いてある。このだらだらとしながら読ませるのが不思議な手法と言うか味で、こんな書き方もあったかと驚かせられる効果的表現。ヘタウマの漫画があるが、ヘタウマの文芸作品のようだ
発行所=〒458-0833名古屋市緑区青山2-71、安藤方。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一
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コメント
「創」を取り上げてくださり、喜んでいます。僕とは個人的なつながりのない同人誌ですが、伸びてゆくような気がします。書き手の中に「文芸中部」や「弦」などの同人がいて、底力を発揮するでしょう。朝岡明美や本興寺更は同人に安心感を与えているように思います。
とにかく名古屋の力強い動きには感服しています。
東谷
投稿: 東谷貞夫 | 2012年12月23日 (日) 00時07分