文芸同人誌「相模文芸」第25号(相模原市)
【「政治と文学に向き合って」外狩雅巳】
総選挙の後で時流に合うので、目を惹いた。わたしは毎回投票に行くが、その度に結果的には、一度も当選者が出ていない。それでもすべて死に票なのかどうかは、判断が難しい。それと似たようなものが、政治と文学の関係にあるのかも知れない。外狩氏は、本誌24号に「「偽りの日々」という短編小説を書いており、それとの創作上の関連が、過去の労働運動生活にあるという。
「偽りの日々」という作品は、全学連活動かなにかの反体制運動で負傷し、身体不自由者となって地下にもぐる男の話である。それを支える愛人、道子の視点から描いたもので、思想的な芯を失った潜伏生活の破綻までを描いたものと記憶している。たまたま今年、潜伏していたオーム信者が自首する事件があったので、それと重ね合わせたタイムリーな作品という読み方もできて、よくまとまっていた。ところがこのエッセイによると、同人雑誌の印刷を依頼した会社の経営者が丹治孝子さんで、「婦人民主クラブ」の代表者であったという。そうした関係で社会運動家としての交流があった話や、女性活動家の姿をみてきたという。
少なくとも「偽りの日々」には、体験を有効に活かしたものとはいえない。また、活かせばもっと良くなるとも思えない。そのことを自ら記して、次回作に意欲を示している。小説にはスタイルというのがあって、それにうまく沿っていることで完成度が上がっていることもある。
【「ぐうたら野郎たちの挽歌」野田栄二】
湾岸京浜工業地帯の海岸にある自動車工場労働者の情況を描く。時期はオイルショックでトイレットペーパーがスーパーで品不足になった時期らしい。溶鉱炉の煙突、運河の廃船、クレーン、喫水の高い貨物船、強風に飛ばされる新聞紙。どれもドライハードな詩的情景に読める。そこに豊満でエネルギーに満ちた中年女性が出てくる。中味は郷愁に満ち、文学的で見事な叙事詩として読める。自由な散文精神によるこのような作品は、同人誌ではエッセイとするらしいが、詩的散文のジャンルがあっても良いような気がする。このようなものは幾つも乱発できるものではないと思う。
発行所=相模原市南区古渕4-13-1、岡田方「相模文芸クラブ」。
紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一
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