詩の紹介 「水切り」 小野ちとせ
「水切り」 小野ちとせ
つながりを絶ちたくないから/水の中で 茎を切る
ゆめのなかで受け取った大きな花束/つりあっていただろうか わたしに
かけられた言葉のあれこれ/かけられなかった言葉のあれこれ/ひとこと ひとこと 反芻しながら/電車を乗り継いできたのだけれど
にわかにかわきはじめている/薔薇の切り口は腐りやすく/傷みやすいのだった
家に着くとすぐさま/バケツに水を張り/リボンを外して/花達を解放する
かけられた言葉のあれこれ/かけられなかった言葉のあれこれ/いっぽん いっぽん 思い合わせて/丹念に切り詰める
刃先が鋭くなければ 水はつながらない/ためらっていたら 水はつながらない
つながるために生まれてきたのだから/水の中で 茎を切る
詩と評論「プリズム」14号より(埼玉県川越市「プリズムの会」)
紹介者・江素瑛(詩人回廊)
どのような事情で花束を受け取ったのであろうか。夢の中なのか、夢のようなのか、貰った大きな花束を、生け花の華やかな短い生涯をつなげるには、素早く丁寧に水のなかに茎を切らなくてはならない。去り行く場所からの決別の時をイメージさせる。花の生涯は水を吸い上げる力で決まる。じわじわと萎れる力とのせめぎあい。夢のような出逢いもすぐ過ぎ去る。その一時、一時を大事にすることではないか
| 固定リンク
« 第19回「電撃大賞」小説部門は桜井美奈氏「きじかくしの庭」と茜屋まつり氏「ハロー、Mr.マグナム」の2作品 | トップページ | 自由報道協会ゼミナールに重信メイさんが講師に(10月24日(水)19時) »
コメント
詩作品の手入れ、感想、評文を書く難しさは散文の場合とまったく異なる。難しいものがある。
投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2012年10月19日 (金) 19時08分