文芸同人誌「文芸中部」91号(東海市)
【「料理教室の日」堀井清】
男の高齢者たちの料理教室に瀬川は通っている。家には90歳を超える父親がいて、奥さんが世話をしている。その奥さんとは朝、瀬川が家事の手伝いをしないということで喧嘩になり、離婚を口走ってしまう。というように話を紹介しても仕方がない。独特の静かで流れるような文体で、そのなかに激流も澱みもあるという、じつに音楽的な作風なのだ。そして考えさせる。高齢者の夫婦関係と孤独をテーマに登場人物に事件が起きるが、それがリアルさを象徴性に変える手法に舌をまくというか、感嘆させられる。この作風がいつも安定していて、繰り返し読んでもあきない。年代層にもよるであろうが、誰が読んでも興味深いであろう。文体スタイルに作者特有の美学がある。
本誌に「ずいひつ・音楽を聴く」(61)も書いているが、オーディオマニアだった作家・五味康祐の時代からの愛好者とある。吉田秀和も長命であった。自分はメーカーの注文で、各地のオーディマニアを訪ねたことがある。懐かしさを感じる。
発行所=〒477-0031東海市加木屋町泡池11―318、三田村方、文芸中部の会。
(紹介者「詩人回廊」伊藤昭一)
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