詩の紹介 「チケットの半片」 清水省吾
「チケットの半片」 清水省吾
カウンターで/空席を捜す/―中略―/(通路F列 CとD)たて・よこ・高さ三次元の 記号の座席から/航空機も 劇場の舞台も/わが目的の 終着点へ/寝ながら 四次元の異界へ
小型ジェット機は 独から仏へ/―中略―機体が 突然の たて振れ/エタイの知れない/乱気流が 機を呑む―中略―
汗が乾き/塩分が肌にこびりつく/砂漠を横断する 馬車ならぬ駱駝の車に揺られていた/フセイン髯の操車の男が/砂漠の真ん中でわたしたち乗客に 下車を命じた/チップの要求か/―中略―/わたしは記号のない白紙のチケットを捨てる
即日に迫った チケットが手にはいり/友人の画家に声かける/彼はシンホ二―の組織を批判していた/画家の妻はわたしの亡妻と同期であった/(中略)/画家の妻は 大腸と直腸を癌に犯され/―中略―/画家の妻の 傷口に提琴の響き/画家の妻は数週間して/チケットの半片のようにちぎれ逝った/////予約ずみの わが終着点/(通路F列の C区画とD点)へ/わたしは崩れかけた石塔を目印に/いくつかの小径をまがり/四次元とおぼしき奥深い異界の ヒカリゴケを踏み/わが妻と 画家の妻の/回帰にそえる/冷水と 花を供える (幻竜第16号より2012/09 川口市・幻竜舎)
紹介者・江素瑛(詩人回廊) 場面を次から次へ展開させることで、映画の断片のような人生の断片を観る。手に握ったチケットの半片は、「たて・よこ・高さ三次元の 記号の座席から/航空機も 劇場の舞台も/わが目的の 終着点へ/寝ながら 四次元の異界へ」人が生まれると、すでに決められている目的地がある。人生の旅のチケットは半券に切られて、妻と画家の妻、大事な女性二人はすでに彼岸に着いていた。詩人もまた迷いなく、「四次元とおぼしき奥深い異界」の夢を見ながらわが目的地、人生の終点をみつめそこに連れられてゆく。
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