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2012年8月11日 (土)

杉山武子「土着と叛逆~吉野せいの文学について」(あさんてさーな)

 杉山武子「土着と叛逆~吉野せいの文学について」 (あさんてさーな)は、1章「吉野せいについて」、2章「農民詩の回路ー猪狩満直の残したもの」、3章「からすとまめー三野混沌の世界」、4章「寂寞を超えてーの生と死」が収められている。どれも作者が雑誌「農民文学」に掲載したものをまとめたという。
 共通としているのは、生活の糧は文学に得ることなく、主として農業生活を営み、その生活が求めたものが詩文であるということ。書くという作業が、農業生活で自ら自分を見つめるために欠かせないという必需的行為になっていることがよくわかる。
 私は、こうした詩人達の存在は、かすかにどこかで目にしていたが、詳しくはしらなかったので、この本でその詩や文章を知り、大変に感銘を受けた。
 しかし、そういう感想では仕方がない。まず、これらの人々の作品には、芸術的な工夫よりも、日々の自己凝視の手段として使命をもつ。そのために引き締まっていて、退廃やニヒリズムの翳がない。畑仕事が終っても、その力が文章に乗り移っているようだ。こうした文体と生活を追っている、作者の杉山氏も文体が似て、引き締まっているから不思議だ。
 農業に限らず、力仕事と文体とは関係があるのではないか、とかねてから思っていたが、やはりそうだった、と思わせところもある。そこが作者の解説文と、原作の引用文の似てきているが、微妙なちがいになってるようだ。とくに混沌は野良仕事にも手帳をもっていて、思いつくと何かを書き込んでいたという。自分がそのような境遇にあったらら、ぼんやりとした作業を毎日くりかえし、頭の空っぽな民衆として生涯を終えたろうと思い、同時にこう書き記してみると、いまもそうだと思い当たる。
 アナーキズムの時代の影が射す時代の話ではあるが、人は何故書くかという問題にひとつの答えをだしている本である。 
 

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