同人誌「コブタン」(NO.35)(札幌市)
【「東北王国を夢見た男」石塚邦夫】
徳川幕藩体制が崩壊し、薩摩・長州藩主導の尊皇攘夷の流れの中で、会津、伊達藩のなかで、中央集権体制からの独立を志した人々の意気と挫折を描く。よく調べてあり、講釈師の話を聞くようで面白い。
背景には、生産性のよさで封建制度のなのに、東北各藩が財力をつけていたことが各藩の石高比較に示されている。
それが、時代の流れの中で中央集権体制への馴染み深さか、あるいは経済的な負担の多きい戦争を避けたいという心理なのか、徹底抗戦にもっていけず挫折する。徳川幕藩体制時代の方が、現在の都道府県より財政的に自由なものがあった様子がうかがえる。現在の中央集権制度での、税金を(自分の金でもあるがごとく)お上が与えるという体制が悪い。地方で生活のための働き場所、金欲しさに、命がけで原発を誘致させるという状況を作り出している。東北地方は徳川時代よりも現在のほうが悪政なのではないか、と考えるヒントであるかも。
【「インド逍遙(三)」須貝光男】
副題に―デカン高原の諸院・緒窟・諸文化―とあるように、インドの風土と人間模様が詳しく、しかも系統的に語られて、以前も今回も興味深く読んだ。長いので、時間をかけて読んでいたら、紹介記事を書くのを忘れてしまったので、現在、新鮮な感動を受けたところで、紹介しておきたい。
インドはとてつもなく多彩で奥深いと聞いてはいるが、偏向して物知らずのせいか旅行記で、これほど具体的に書かれたものを私は知らない。人生経験とインド文化への知見が深く、社会的な制度による人心の機微の観察力、宗教精神の深さを感じさる。隠居状況でインドを再訪したらしいが、これを読むと若い時代にインドに行っても、社会的な知恵が得られるか疑問である。それを具体的に示すような日本の若者の現地での事情などが的確に語られている。
また、旅行記としてこのような形に纏め上げることのできる手腕に畏敬の念を抱かざるを得ない。社会人として相当の事業をしてきたと思われる人もまた、同人雑誌活動をしてきているのだな、と妙な感銘を受けた。今は亡き中村元氏の書の話がでるのも懐かしい。
発行所=〒001-0911札幌市北区新琴似十一条7-2-8、コブタン文学会
(紹介者「詩人回廊」伊藤昭一)
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コメント
「コブタン」35号の紹介ありがとうございます。
須貝光夫はアイヌ文学の研究では第一人者で、アイヌ研究業界では有名な方。
須田茂は未だ40台の新進評論家でアイヌ文学関係の研究では将来を期待されている方で東京在住のサラリーマンです。ひょんなことで北海道に関心を持ち、ときどき取材で北海道を訪れてます。今回の「上西晴治の文学」もアイヌを主人公にした小説を書く北海道在住作家として亡くなった作家として取り上げていました。
北海道は今もって日本文化の集合地区の植民地文化の多様性を持っています。以後何かとお世話になりますが、よろしくお願いします。
投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2012年8月13日 (月) 16時13分