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2012年7月 4日 (水)

「季刊遠近」第46号(東京)

【「武士でもなく皇軍でもなく」逆井三三】
 新撰組のとくに近藤勇を中心にした物語である。時代小説及び歴史小説は、語り口が重要でこれは充分面白く読んだ。かなり長いので、時間をかけてぼちぼち読み進むのが適しているようだ。現在は時代小説に人気があるようで、かなりつまらないものまでが文庫本になっている。いわゆる暇つぶし読み物に徹していて、読者もそれでいいらしい。そういうものに比べたら、これなどは出版しても読者に不満を持たせることはないと思う。とくに、新撰組の当初に掲げた旗印が、芹沢、近藤とリダーシップの変遷が、解釈を多様化させ矛盾と解離を内包してゆく過程なかで、土方、山南などが対立してゆく事情などはよく筆が行き届いている。組織内の変質と対立は、大義を忘れさせ偏狭なものにしていく。
 組織が変質するときに、日本では組織内にそれに抵抗する人間は、空気を読まない勢力として排撃する傾向がある。そのために、悲惨な結果を招くことがある。太平洋戦争での官僚と軍部の癒着がそうだ。戦後の安保反対の過激派の日本赤軍派の愚行、オーム真理教の暴走など、組織内で空気を読まないことで排撃されるのを恐れての仲間同調の結果である。東京裁判で戦犯として糾弾された日本人軍部は、誰もが「本心は戦争に反対だった」と答えたという。告発した国連軍は驚いて「戦争に反対なのになぜ戦争したのか」と、彼らをとんでもないウソつきと軽蔑したという。
 この作品では、たまたま、新鮮組は自尊心が強く、滅びの美学を知っていたので暴走しきれず消滅したのだな、と思わせるものがある。
 世相を読み取る編集者が、時代の流れにあわせて書き増しや章建てなどを再編成すれば、売れそうな感じがする。ただ、出版社は継続してシリーズ化できるのを望むので、それに対応できるような書き方が求められるかも知れない。たまたま先月、近藤勇が大名家に資金を無心する手紙が発見されたというニュースがあった。この作品を読むと、さもあらんと思わせるものがある。
【「斜面の町」難波田節子】
 定年後も職について満足している夫、年頃を過ぎてまだ結婚しない二人の娘たち。主婦と母親の視点で世間話的な題材を扱う。家で夫に書斎を作ったら、そこで書き物をしないという話には思わず笑ってしまう。近所の家が火事なってしまう出来事をめぐる話。ありふれてはいるが、どこか傾いているような日本的な生活の在り方を淡々と描く。相変わらず巧い。こういう女性の細部の鋭い視線には。男は勝てない。問題がないような生活のなかの問題意識が顔をのぞかせている。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)

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