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2012年6月22日 (金)

詩の紹介 「ギダンジャリ(87)」タゴール(訳・川名登)


ギダンジャリ(87) ロビンドロナト・タゴール(訳・川名登)

あてのない希望を抱いて、わたしは部屋の隅々まで捜しまわる。あのひとはみつからない。
わたしの家は狭い。いちど消えたものは、もう二度と戻ってこない。
しかし神よ、あなたの舘は途方もなく広い。あのひとを捜して、わたしはあなたの扉にたどりつくほかはない。
あなたの夕べの空の金色のひさしの下に立ち、わたしは熱いまなざしで、あなたの顔を見あげる。
わたしは永遠のほとりにやってきた。ここから消えてしまうものはなにもないー希望も、幸福も、泣きはらした眼に映る面影も。
おお、わたしのうつろないのちを、あの大きな海に浸しておくれ、いちばん深い豊かさのなかに沈めておくれ。せめていちどくらいは、あのうしなわれたやさしい肌ざわりを、完璧な宇宙のなかに感じさせておくれ
*妻ムリナリニ・デビのこと、二男三女を出産、一九0二年十一月没。享年二十九才。

詩誌「知井」No14より、2012年5月京都市北区・発行者・名古きよえ

紹介者・江素瑛(詩人回廊)
一九一三年インド詩人タゴールの英文詩集「ギダンジャリ(歌のささげもの)
」103の詩の第87篇である
若くて死んだ妻を想い歌ったもの。「あのうしなわれたやさしい肌ざわりを、完璧な宇宙のなかに感じさせておくれ」妻の面影を捜しつつ、消えても消えないものがある。失っても失わないものがある。人間と神と神の国のかかわり示し、ともに、宇宙のなかは存在の永久世界。「しかし神よ、あなたの舘は途方もなく広い。あのひとを捜して、わたしはあなたの扉にたどりつくほかはない」
宇宙の孤独を耐え得るのは愛であった。

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