同人誌「小説芸術」第55号(新座市)・続き
【『原発ジプシー・続「震災日記」』佐藤蓑虫】
福島県から震災、原発事故で一旦は、神奈川県厚木市で認知症の母を介護する兄の家に転がり込んだが、母は亡くなり、知人のつてで福島県いわき市にとどまり、避難民となって暮らす。避難民としての悲惨な生活と政治の大きな枠組みのなかで、それに流されて暮らすしかない民衆の無力さがあらわに描かれている。
なかで、避難民として暮らすなかで、たまたま還暦を向かえ、仕事をこなす重圧から解放されるという気軽な面もあるのだとある。年金と東電の補償金で、経済的な心配がなく、のんびりした日々にもなる。妻はふっくらと肥ってきたとある。メディアではまず、画一的な報道しかしない。真実の一面であろう。災害がなくても、日々の労苦から逃れていたわけではないのだ。同人誌文学の独自の世界である。一読をすすめる所以でもある。
【「対岸へ」石川友也】
心優しい詩的ロマンから生まれた予定調和の世界で、ほっとさせる。これも文芸の世界。
【「あるアパートにて」香村努】
都会のアパートで独り暮らしをする男の孤独な視線で周囲をながめる独白文であるが、都会人の内面をさぐる詩的な領域に足を踏み込んで、もの悲しいような、皮肉のようなイロニーに満ちて、ほとんど散文詩にちかい文学的な魅力を漂わす。
発行所=〒352ー0032新座市新堀1-13-31、竹森方、小説芸術社。
紹介者・伊藤昭一(「詩人回廊」編集人)
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