島岡明子「『紅爐』―私記 同人誌三十年」(文治堂書店)
(文治堂書店)
昭和38年頃から同人誌「紅爐」を30年にわたり運営してきた著者が、同人誌運営の経過を詳細に記録したもの。日本人の同人誌発行の精神そのものの記録として、大変興味深く面白い。
島岡氏が同人誌にかかわったのは、昭和27年ころ、静岡の「東海人」という同人誌に加わり、その後「文芸首都」の末期に同人に参加し、中上健次などと出会う。その後「紅爐」では同人の吉田知子氏は芥川賞受賞、小川アンナ氏などが活躍したとある。
このころ文芸首都で有料の添削システムがあったらしく、それに関連して、島岡さんの作品の批評を受けた時の添削文が掲載されている。この当時は現在とちがって、近代文学の隆盛の時期で、良い文章表現の基準らしきものがあった。(いまでもあるのだが、それが市場性と結びつかないので軽視されている)。
そして、基礎力を会得した上で良い作品であれば、文壇に登場し作家への登竜門となった。売れるか売れないかの市場原理にそれほど左右されない時代のことから、現代文学の市場性まで――これから同人誌が運営されるなかで、必ず論じられるであろう、そのすべてが記述されている。
(紹介者「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
| 固定リンク
コメント