同人誌「札幌文学」第77号(札幌)
【「あの呼ぶ声は」須崎隆志】
出だし高台からみる光景の描写から始まる。しかも動的で、何かの物語の展開を予感させる手法に好感をもって、読み出した。すると、札幌の雑誌なのに、九州の半島が舞台になっている。クマゼミが鳴いている土地柄は確かに南のものである。ん?とますます興味を感じて読み進むと、大変良い作品であった。
もともと文芸作品として技術を凝らした意欲的な小説なのであった。炭鉱に働いていた父親が、職業病である肺病になって病気と闘っている。子どもの頃に主人公は、近所の同病の炭鉱夫が、それで亡くなったのを知る。主人公は驚きで、無邪気に「大崎さんのおじさんが死んだ!」と父親に告げる。
あとで、主人公は父親が家族のために「死んでたまるか」という気持ちで頑張っていたのになんという心無いことをしたのか、という自責の念がトラウマとなって主人公を苛む。本人はこれによって父親との関係の変化や、父親が亡くなって母と弟の関係も変質したと思い込む。切ない気持ちがよく伝わってくる。それが肉親からの愛情への飢餓感となり、こだわりから、独りで命がけの遠泳に挑む。傷つきやすい心が、父の心を無視したとなやまさせる。もうひとつ深みが欲しい気にもさせるが、短編の構造に従っており、それも創造的な制作の意欲が見えているからこそのもの。
発行所=〒001-0034札幌市北区北三十四条西11丁目4-11-209、坂本方。
(紹介者:伊藤昭一「詩人回廊」編集人)
| 固定リンク
コメント
札幌文学の須崎さんは九州の出身で、千歳で居酒屋やっている粋人です。北海道を代表する作家のお一人で、若い頃東京の広告会社にいたこともある方です。
「関東」「群系」の掲示板のアクセス毎日150から200と倍増して活気があります。
投稿: 根保孝栄・石塚邦男 | 2012年4月25日 (水) 23時24分