濱嘉之さん『列島融解』
昨年三月十一日に発生した東日本大震災とこれに伴う津波による被害は、国内のみならず、海外にも大きな影響を与えた。なかでも、福島第一原発の事故は原子力政策を推進していた多くの国家にあらたな課題を突きつけた形となった。
原子力の有効利用のうち、最もその存在が示されているのが発電である。これに関しては、いつの間にか作り上げられていた「安全神話」なるまやかしを多くの国民が信用させられてきた背景があった。
本書の冒頭で「エネルギー政策というのは、本来、経済政策として捉えるべきものなんですよ。そしてそれはすなわち、この国の形を描きなおすことなんです」という文言を敢えて入れている。事故以降、多くのマスコミや政府要人は今回の事故を全て電力会社の責任として、その攻撃に終始していた。
しかし、果たしてそうだろうか? 原子力政策、エネルギー政策というのは、元々、国家の経済政策として始められ、それを請け負わされているのが電力会社だったのではなかったのだろうか?
私は警察という職務に二十二年半の間奉職してきた。ただ、警察という職業は極めて幅が広く、セクションによっては極めて専門的な知識を要求される。内閣官房内閣情報調査室に勤務した当時は二度の政権交代が行われた。
与野党の対立軸からイデオロギー闘争という牙が抜かれるようになると、政治的対立の真相を究明しなければならなくなる。一方でイデオロギー闘争に支えられた反原発運動の裏面も垣間見てきた。
そしてその経験が退職後、衆議院議員の政策担当秘書という形で役立つことになった。政界再編という現実が、物事を両面から、あるいは多面的に見る習慣を身につけさせてくれた。現実に目を向けると多くの難題が山積しているが、その中でもエネルギー問題と、これに影響を受ける産業は待ったなしの状況にある。「これからのこの国の姿を描きなおす」。そして将来、この国を支えて行こうとする人が暮らしやすい社会にするには、国家の形はどうあるべきか……。真剣に考えて記したのが本書である。この国の宝は叡智と技術と勤勉さである。これが失われた時、国際社会では国家として必要とされない時が来る。その前に何をすべきか……その一隅に光を当ててみた。 <濱 嘉之>【講談社ミステリーの館】2012年3月号
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