詩の紹介 「それでよい」北条敦子(田園・詩と批判150より)
それでよい 北条敦子
いつも通っている住宅街/ある日ブルドーザーの激しい音/その家は粉砕され粉砕されて/たちまち瓦礫の山に/やがて明くる日 明くる 日を追うごとに /瓦礫は片付けられ片付けられて/家の形跡は微塵もなく更地に
元はどんな家だった?/更地を目前に一瞬 過去の映像を追うのだが/すーっと浮かんできた例しがない/毎日通っているのに/記憶ってそんなものなのか
きょうは快晴/さんさんと日は降りそそぎ/風は自由気儘に行ったり来たりしている/更地はあたしの思惑など どこ吹く風/あっけらかんとして/未来にゆめを託し/新しい門出を心底待ち侘びているかのようだ
それでよい それでよいのだ
2012年3月1日 三島市・岩礁の会
紹介者・江素瑛(詩人回廊)
日々目の前の景色は目の網膜を映り過ぎていくが、脳には残らないものである。そういう変哲のない日常は、ある日気が付けば、そこに何があったか思い出せない。かつて在ったものが脳には止どまらなかったのだ。「それでよい それでよいのだ」景色は我がものと思ったりすることはいけない。景色も世も常に変るものなのだ。
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