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2012年3月22日 (木)

詩の紹介 祈禱書(烏)平野 充   (「幻竜」第15号)

「不在」
はじめての出会いと同じように/ここに戻って来て見えたものは/夥しい点であった。/わたしにふさわしい場所が そこにあったかどうか。/その点のなかに/わたしが いったのか いなかったのか
依然としてわたしは知らないという
この見知らぬもの/遥か地平のはずれに爪を立て/わずかばかりの痕跡を残し。明らかに そのことについて/わたしについて/わたしを見たというものの/数千年経った今もなお/骨の所在を知らず/おのれの影に怯えることもなく/まして/立って歩いたという記憶すらないまま/いまだに/わたしについての答えはない(2012年 3月 川口市 幻竜舎)

紹介者 江素瑛(詩人回廊
「わたしと死」「不在」「寓話」のうちのひとつ。どこからスタートしてどこに戻るのか運動場の歩道一周のような生の循環。無から有になり、有から無に戻る。「遥か地平のはずれに爪を立て/わずかばかりの痕跡を残し」と作者が囁く通り、せっかくこの世に暫く身に寄せ、一生を過ごしてきた。どんな生であるか、しるしを刻んで残したい。しかし意欲があっても、爪をたてた痕跡が僅かに残る場合があるが、痕跡さえ残らないのがほとんどである。
「その点のなかに/わたしが いったのか いなかったのか」時間が過ぎると過去のわたしの存在は不在になる、この世にわたしはただの旅人、誰でも過去のわたしの存在を証明することができない。自己存在の不確定さを示すことで、存在への確証を得ようとするのが人間の業なのか。

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