二階堂黎人さん『覇王の死 二階堂蘭子の帰還』について
『覇王の死』は、名探偵・二階堂蘭子シリーズの最新長編です。〈ラビリンス・サーガ〉 の完結編でもあります。
この四作を通じて、私は徹底的に、昔の探偵小説(江戸川乱歩や横溝正史が書いていたようなもの)の面白さを復活させることに心血を注ぎました。現代の観点からするとリアリティがないと批判を受けるかもしれませんが、それは覚悟の上です。状況設定や推理の論理性なども、あえて多少緩く提示してあります。しかし、その分、物語展開のダイナミックさや事件全体の神秘性を強調してあるわけです。
その結果、『双面獣事件』やこの『覇王の死』などは、本格ミステリー史上 あまり類例のない、希有な作品に仕上がったのではないかと自負しています。
〈ラビリンス・サーガ〉に通底する秘密は、第二次世界大戦の際に日本の軍部が画策した〈M計画〉です。戦争に勝つためのこの恐ろしい研究が、ラビリンスという悪魔のような犯罪者を生み出し、世の中に数々の恐怖を与えました。『覇王の死』では、その〈M計画〉の首謀者も登場して、事の真相がほぼ明らかになります。
また、御存じのとおり、二階堂蘭子シリーズには、常に密室殺人を代表とする不可能犯罪が満載です。『覇王の死』にも密室殺人が二つ出て来ますし、舞台となる村では異様極まりない惨劇が次々と起き、前代未聞の不可思議が登場人物たちに襲いかかります。そういう意味では、読者の期待を裏切ることはないと思います。
読者の皆さんもぜひ、蘭子さんと一緒に――いいえ、彼女に先駆けて――この大事件の真相を推理してみてください。 <二階堂黎人> 【講談社ミステリーの館】2012年2月号より。
| 固定リンク
コメント