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2012年1月14日 (土)

同人誌「文芸中部」88号(東海市)

 東日本大震災によって、文芸の世界ではそれをどう表現するかが、話題にされる。それは当然でもあるが、もっと重要なのは大災害を体験したひとはもとより、それを見聞した読者の読み方がどう変わるかであろう。読む側の意識変化が書き手の表現への感受性や評価を変えることは充分考えられる。
【「青空」西澤しのぶ】
 長いイスラエル勤務の夫をもつ主人公(私)は、息子をパレスチナに近いイスラエルで産んでいる。そこで新しい生命である子供に対する地元の深い愛情と思い入れを知る。そのなかで、人々が宗教、人種、領土などでの、緊張関係を感じさせる説明がある。
 日本に行って戻ってきる途中に、私はパリに泊まる。すると、アラブ人のヘジャブ姿の女性に出会う。お腹が大きいように見える。
 この描き方で、大変な緊張感をもたす。テロリストのある典型的な様相でもあるからだ。
 私は、思い切って彼女に声をかける。私がイスラエルとパレスチナの地域に詳しく、共通の知り合いの医師がいるとわかると、アラブの女はそこで身の上話をする。
 彼女にはイスラエル人の恋人とも親友とも言える友達ができ、彼はパレスチナ人との話し合いによる問題解決を考える思想家であった。紛争が起きると、彼女にイスラエル側からの攻撃があることを知らせ、避難するように連絡をしてくる。
 そこで、戦火のなかで日々明日を知れ命がけの毎日を送ることが語られる。恐怖と隣あわせの日々が臨場感をもって、よく表現されている。
 この砲撃を受ける様子の描写は、まるでハリウッド戦争映画かハードボイルド小説のようなスリルを与えるように思わせる。しかし、自然災害の暴力的な被害を知ると、それより自然な感じで、身に迫って読ませる。
 小説としては、もっと工夫があっても良いとは思わせながら、書くべきことを書いたという作者の達成感もよく伝わってくる。この明日をも知れぬ日々の感覚は、自然災害の大地震の余震と次の原発事故の発生の予感におびえて暮らす生活と比較させられる。かつて平和と思い込んで暮していた読者側の読み方を変えるものがあるのではないか。
発行所=〒477-0032愛知県東海市加木屋町泡池11-318、三田村方。文芸中部の会。

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