小説と評論「カプリチオ」2011年冬36号(東京)
特集「いまだからこそ再会したい夏目漱石」
夏目漱石の課題にした人間性へのテーマは、いまだに解決の糸口が見えないと思っている自分には実にタイムリーな特集に思える。深く読み解く力不足の自分の知らないことが沢山盛りこまれている。
7人の筆者がそれぞれの視点から論じているので、多彩な解釈が集まった。
「漱石の不愉快」(鈴木重生)は、漱石の書き物もの中から不愉快という語をチョイスし、その元が英国留学での西欧と日本の精神的な構造の違い、孤立した精神環境、日本の文学的な環境、国家主義への不快であること示す。
「オフェリアの気韻」(荻悦子)は、草枕に見る漱石で、文章藝術的な志向による実験的なものと指摘する。文学者なら一度は試みることかも知れない。わたしは中学生時代に先生によむことを宿題にされたのが「草枕」である。当時、ホームズ、ルパン、明智小五郎の探偵小説を読み漁っていたので、その内容に面食らった記憶を残す。
「『草枕』―俳句と小説の間―」(芦野信二)、「輪廻のど真ん中で直立する漱石」(塚田吉昭)など、それぞれ読み応えがある。特に「地下生活者としての夏目漱石」(草原克芳)は、漱石の人間完成への希求精神が、現代のニヒリズムの横行によってすでに過去のものとされているのか、という問題意識を呼び起こすものがある。
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