詩の紹介 「畑」 石野茂子
畑 石野茂子
電話の音もざわめく人の声も/日常の家事も/すべて闇に預け/畑に向かう
一面の霧にぼんやり浮かび上がる/山あいの台地/墨絵の世界に朝陽が射し込むと/露を含んだじゃがいもの花は/一斉にきらめく/さやえんどうの露は 畝に転がり/里芋の露は葉の中で振り子のように揺れる
日が昇ると いつしか露は消え去り/ひばりが中空でさえずり始める/きじが早足で畑を駆け抜け/むくどりが虫を探しに降りてくる/ひたすら雑草との闘いの中で/鍬を振るい汗をぬぐう
そのときこそ/悲しみに心塞ぎ 苦しみに心痛むとき/遠い記憶の中から母の笑顔を連れ戻し/ゆるぎない愛を昇華させる/癒しのひとときとなる
真赤な夕陽に別れを告げ/闇の中から 再び日常を呼び醒ます
詩誌「田園」(岩礁改題)149号 三島市南本町・岩礁の会
紹介者・江素瑛(詩人回廊)
家庭の日常は夜明け前の闇に預けてしまう。放棄、放置するのではないが、畑の仕事に専念する。野畑は神聖な世界、平和な心の宇宙です。人間の魂が自然の一部であるかぎり、そこにやさしさが漂う。音楽、文学、絵画と人間は芸術に親しむ、しかしその素はどこから生まれるか。本来人間の幸せはその変らぬ日常にある。感謝の心をもって、傷や痛みは過ぎ去ったものとし、変らぬ日常を営み時代とともに歩きましょう。
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