文芸同人誌「彩雲」4号(浜松市)-3-
今回紹介のものは、どれも生活日誌的なもので、普通は文芸的な要素というのは薄らぐのだが、高齢者の先行きの見えてきた人生からの視点が冴える。それがなにか普通のことを普通でない貴重な光景にまで高めて読ませる効果がある。
大きな未来をかかえた若者には、現在を追いかけるのに忙しく、つまらないようなことでもそれが大切に思える。多くの読者を得る大衆文学の素因はここにはないが、どこかに一人の読者の心をとらえ共感者がいればよいのだな、と思わせる。
【「つづくだのぉほか」村伊作】
70歳を過ぎて積み重ねてきた歳月を背景にエピソードをつづる。寺の檀家の総会で久しぶりに同じ時代を同じ土地で過ごしてきた者同士が、腹蔵なく語り合う。すべて語り尽くしあうには、同じ歳月がかかるであろう。「わしらの付き合いは、ずうっと、ずうっと、つづくだのぉ」という表現が過ごしてきた人生が、素晴らしい輝きで照り映えていることを知らされるのだ。
甲斐という主人公がたどる、昔の面影の残る風景、あとかたもない風景などが妙に幻想的で、時間の演出するマジックとして、風景描写がよく活きて目に浮かぶ。土着的な言葉づかいが温かい味わいのある物語に読める。
【「こんな人生」鈴木孝之】
文房具メーカー勤める松埜は、自分の商品企画が採用されないでいた時には、体調が悪かった。検査をしても異常はないと言われる。ところがその彼の企画が採用され大ヒットする。体調へ絶好調である。すると、そこで体内にはガンが巣食っていたことが判明する。手術し意識の快復しない彼は、子供たちに夢を与えた満足感から、微笑んでいる。人生の生きがいの教訓を物語にしているのだが、スピード感があって面白く読める。ドラマの原作にいいかも知れない。
【「道の向うへ」馬込太郎】
自然に恵まれた農村地帯の高齢者の生活ぶりが描かれている。従兄弟が住んでいるところに自転車で行き、従兄弟の生活ぶりを老齢者の視線で眺める。体験からでたエピソードがどれも面白い。
《文芸同人誌「彩雲」のひろば》
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