詩の紹介 家鴨 山口敦子
家鴨 山口敦子
「きのう 六羽生まれたわよ」
村中に 喜びの声が響いて/子どもたちが/つぎつぎに 集まってくる
地べたに へばりつくように/ヨチ ヨチ/鴨の子どもたちが 歩き始めている
「あっ 危ない」/こどもたちが 叫び合う
「いつまで見ているのよーご飯ですよー」
母親たちの 叫び声で/一目散に 家に戻り/赤々と燃える囲炉裏火に/両手を翳す 子どもたち
子鴨たちの 鳴き声が/微かに聞こえ/彼方から/虚無僧の 尺八の音が聞こえてくる
鳴きかはしてはよりそふ家鴨(山頭火)
詩集「旅路三頭火の世界へ」より 2011年 10月東京都(土曜美術社出版販売)
紹介者・江素瑛(詩人回廊)
人間も動物だから、共存共栄の関係である。動物がよく登場する山頭火の俳句から詩作をされたのか、詩作してから山頭火の俳句に照応されたのか、ユウモアと愛情に満ちた作者の生の旅でもある。ささいなことでもすぐに小さな村には伝わる。生まれた子鴨は、子供には純粋な喜びであるが、大人はまた別の喜びがある。穏やかな農村に生まれた家鴨が背負った運命は、人々と同じで、おだやかなものとは決まっているとは限らない。
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