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2011年11月13日 (日)

同人誌「小説藝術」54号(新座市)

【「三島没後四十年」羽島善行】
 1970年11月25日、三島由紀夫が市ヶ谷の陸上自衛隊駐屯地で割腹自殺をした。作者16歳の高校生だったという。三島が太宰治に批判的なことやその言動に共感があって、三島の代表作を読破したことから、改めて評論にしたものだという。傾倒するも無批判ではなく、精読して自立した視点を会得しており、文芸評論家の講演をきいても必ずしも賛同していない。
 その知見からの三島論なので秀逸。学ぶところが多く、有意義に読めた。
 三島は昭和34年5月の「群像」に「十八歳と三十四歳の肖像画」という寄稿があり、講談社の「美の襲撃」に収められている。そこでは自作について解説している。「仮面の告白」では、自分の気質を認め、それを敵として直面。抒情の利得、うそつきの利得、小説技術上の利得だけを引き出したのに耐えられなくなって、すべてを決算し、貸借対照表を作ろうとした、と述べている。
 三島の分析的な明晰さと日本民族的傾斜は、西欧の一元論を意識したところから出ているようだ。しかし、日本人として自同律・アイディンテティの合成ぶりが作品のつながりを混沌とさせている。自分にはその根元には、太宰に対し、民族的同質性をみたがゆえに反発する感性があるように思える。

【「断絶」美倉健治】
 母親が亡くなった知らせを聞いて「ついにクタバリやがったか」と、気の晴れた思いをすると語る息子の独白体。平談俗語体というか、日常用語のみで文学的表現をしようとする意欲が感じられる。
 その他、3・11震災に関する重みのある作品がいくつか。同人誌に読む震災記というのも評論のテーマになるかも知れない。
発行所=〒352-0032新座市新堀1-13-31、ホワイトハイツⅢ103号、竹森方。小説藝術社。

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