文芸同人誌「彩雲」4号(浜松市)-2-
【「兎狩りー少年譜“秋葉の里”より」鈴木智之】
南アルプスの望める自然豊かな町の少年たちの話。他所から引っ越してき逞しい朝鮮少年に投げかけられる住民のとがった対応を、それより何年か前にこの町にきたちょっとシャイな少年の視線で描く。兎を捌く話など年配者ならなつかしい風景である。ここでは朝鮮系少年の正義感と異邦人扱いされることへの反抗心が、友人の少年に刻んだ記憶として語られている。越えてきた作者の時代の視線が生きている。
【評論「『星之歌舞伎』幻想―鏡花と雪岱試論」山本平八郎】
泉鏡花の作品「星之歌舞伎」の概要とその意味づけ解説。文語体で長いものとなると読んだことがないので、大変面白く勉強になった。日本的な耽美主義、絵画的イメージをつなげる劇場舞台向けの作風を印象づけている。
【「A DAY IN THE LIFE chater3」平田喜久夫】
腸がんの宣告をうけた女性の治療過程を描く。冒頭の腸内診断の風景を、細部にわたって独特の緊張感で描く。まるで魔窟のエイリアンを発見しそうな気分で病巣をみつめる。病巣に侵された自分の内蔵であるが、自分では無力。医師に救いを求めるしかない。そうした受身に抵抗しても結局は無力感に落ちる。それを背景にしたことで、患者の恐怖感、苛立ちをスリリングな表現に効果を上げている。創作上の工夫が見られる。これを病に勝つとか、克服するとかいうような視線では根底にある本来の人間の恐怖心を描きそこなう。
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