詩の紹介 にぎやかな御先祖様(1)小野 進一
が 仏壇のなかにおられる/種ちがいの次女の姉は三才のまま/歳をとらない/別の種ちがいの長女になる姉は享年五十才/肢体不自由児だった/暗い女の歴史の影がおふくろにある/二人の姉に/みたらし団子を差しあげる
血縁でない位牌が三つ
一つはおふくろの育ての父親享年六十一才/口減らしのためか幼女の頃手を引かれた/第二次世界大戦まえの炭坑の頭領/坑夫百人は抱えていたらしい/愛人も五、六人抱えていたそうな/本妻も籍にいれてないので本妻と呼べないが/その本妻は享年七十八才/俺の祖母になりおふくろの継母になる女/若い頃は小股の切れ上がった女だったらしい
もう一つの血縁でない位牌は/精神薄弱の老婆 享年五十二才/(現在では老婆と呼ばないな)/当時 おふくろには婆さんに見えたのだろう/餓死寸前で炭坑へ迷いこんだ処を/ヘビースモーカーだった頭領が介護した/一度子守をさせたら赤ん坊と共に行方不明/炭坑の坑夫総出で二人を捜査したとか
種つながりのオヤジの父親は東京の旧陸軍省の印刷局に勤務していた享年六十一才
二・二六事件の「下士官兵ニ告グ」を刷ったとか 刷らないとか
(潮流詩派227 より2011年十月一日 東京都中野区 潮流出版社)
紹介者・江素瑛(詩人回廊)
家系図をたどらないと、分からない複雑な血縁関係。食糧難の第二次世界大戦前後でしょうか、母親から聞いた家族の物語でしょうか、人物が徐々如生、悲哀を感じさせ身の引き締まる作品。当時の男女の平均寿命は六十才くらいと窺わせるが、女性は男性より長生きすることは今とは変わらない。口減らすためか「幼女の頃手を引かれた」、余裕があるとき、「愛人も五、六人抱えてたそうな」女性の生きる道は狭い。社会において軽く存在視されている。
鬼籍になるその時代の人情が温かく賑わい、位牌のなかから今の飽食時代の空虚な人間関係を眺めています。
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