« 区立「日比谷図書文化館」となって11月4日開設 | トップページ | 文学フリマ公式サイトで、開催の歴史がわかるアーカイブ掲載 »

2011年10月28日 (金)

詩の紹介 「しおれた花びら」 小宮 隆弘

「しおれた花びら」 小宮 隆弘
地獄の熱風が心臓の乱れた脈拍を/焼き焦がすかと思えた去年の夏/過ぎてみれば/よわよわしい雨蛙の歩みで生きていた
花見客が飲んで歌って楽しむ/賑やかなさくらと距離をおいた/一本の老木に見とれていると/去年の暑い季節の恐怖が襲って/いやおなしに花を散らす
散った花びらを/手のひらにそっと包み/硬いベンチでさくらの声を聴く/ 散る桜 残る桜も散る桜/テンノウヘイかバンザイ/壮烈な戦死/お母さん/ひと言も語ることなく
二人が結ばれる門出の夜は/丸型の古いちゃぶ台に/目刺しと湯豆腐と大根漬け/ラジオの 雪の降る街 を聴きながら/いとおしい唇をあわせて/ときめく肌のぬくもりを抱きしめ/やがて満ちてくる/おとことおんなの燃えさかる情愛
芽吹きはじめた性は/知ることを求められず/軍人精神で叩かれ/摘みとられた/十七歳十八歳 海軍少年電信兵/散った花びらの/語る言葉は風化してきこえず/わが思い出の断片を拾ってつなぎ/海の彼方に沈んでいった/数知れない帰らぬ友に詫び/なんとなく空虚/老いを生きている
   詩誌「騒」第97号より  2011年9月町田市本町田 騒の会

紹介者 江素瑛(詩人回廊)
 桜のシーズンに騒ぐ花見客と距離を置いて、若桜の熱血が焚き上げられて、戦場に送られ、国のために青春が途切られた、戦死した仲間をしのびながら「散る桜 残る桜も散る桜」、仲間の余生まで生きられて来た老境を嘆く。戦場の経験者のみ知る心がある。

|

« 区立「日比谷図書文化館」となって11月4日開設 | トップページ | 文学フリマ公式サイトで、開催の歴史がわかるアーカイブ掲載 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 区立「日比谷図書文化館」となって11月4日開設 | トップページ | 文学フリマ公式サイトで、開催の歴史がわかるアーカイブ掲載 »