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2011年9月14日 (水)

文芸同人誌「彩雲」4号(浜松市)-1-

【「別乾坤」寺本親平】
 地球上の生物の多くが、海の生物から進化したものだといわれているが、この作品も人類の祖先は魚とし、腕立て伏せをする魚の話題からはじまる。そこからリュウグウノツカイを気に入った絵師の驢馬人の話に発展する。話術の巧さに気をとられ、うかうかと読んでいくと、改行なしでみっちり書き込んだ文章で、長い話がつづく。飛躍しながらイリュージョンとして面白おかしく読み終わる。すると結局、日本人は海の民族であり、原始の時代からDNAに魚の遺伝子があって、仏教的な死生観、エロスを継承しながら生き抜いてきたのだなあ、と納得させられる。古典からの唱や経文の引用が、ピリッと利いている。
 なお、作者は「彩雲」3号に「幻燈一夜」を発表している。この作品は第8回関東同人雑誌交流会で、9月18日選考される全国同人雑誌最優秀賞「まほろば賞」のノミネート7作品のひとつに選ばれている。
【「奈落」大田清美】
 まず、自死の話がまくらにあり、それから美砂は子育てを一段落させて、人生のヤマ場も超え、五十路に足を踏み入れて更年期がはじまると、妖しく優しい友の招き声を思い出す。それは死への誘いである。そしてあの世の叔母さんの招きに誘導される。しかし、死の世界への扉の前で思い直し、引き返す。白日夢の時間を描く。人間の目的意識を失った時の空虚感を軸に、死の意識を身近な主婦感覚で表現しているのが面白く、目を見張った。
 この8月で94歳になった作家・伊藤桂一氏は、死んでもいいと思うと死の世界に入ってしまうので、まだやることがあって生きるのだという気持ちでいるから生きているのだ、という話をしてくれた。うっかりしていると人は死の世界に入ってしまうのかも知れない。「奈落」は一読すると、語り口のバランスの悪いところがあるが、本来は難解な哲学的な命題を含んでおり、身近なわかりやすい物語でありながら、ただの心霊談を越えたところに意義が感じられる。 

《参照:文芸同人誌「彩雲」のひろば

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