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2011年8月25日 (木)

同人誌「胡壷・KOKO」10号(福岡県)

【「散文詩三題」井本元義】
 散文詩というと叙情的なものを根底に置くのだが、これらの作品は、どれもそのなかに、ぴりっとした刺激、小さな火器のような爆発物を内臓している。欧州の影響をうけた近代文学の伝統的な味も籠めている。「春の光、病めり」では、死にゆくものの視線。若い牧師と未亡人の心中という伝説。現実の人生の幻想性と芸術の永続性を浮き彫りにしているようだ。「図書館」も、現実の人生から乖離した男が、それを読破して、膨大な現実の残滓、抽象化に浸る、その源である現実はどこにあるのか、男の意思を描く。「顔」も図書館で読書にひたる男の現実の幻影性と芸術について想いめぐらされるものがある。

【「プライド」ひわきゆりこ】
 姉と妹の性格と人生感のちがいを、姉妹という立場で描く。母親の介護をという子供の課題を透して、具体的に書き上げていく。親から絶大な信頼を無条件に得ている姉と、二の次にされてきてために、姉に比べて客観的に、バランスをとってみる妹に描く。母親を介護し、母親をどれだけ大切にしているかという誠意を軸に姉妹のライバル心が交錯するところが面白く読める。これを書く立場から見ると、視点のちがいを明確にし、章分けをした書き方である。これは分かりやすく、読みやすいので娯楽物に多く使われる。細かい神経質なやりとりが面白いが、文章的に「……たのだろう」という推察的なものが多用する癖がある。その分示す意図をぼやかしてしまい、効果をそぐところが気になる。たとえば「なぜ泰則はあんな向上心も自尊心ない男になってしまったのだろう」とあるところは、「なってしまった」と断定しないと、読者に陽子の性格がはっきり伝わらない。それが、月子のイメージづくりを曖昧にしていると感じた。同時に、姉妹の思いとは別に認知症状態になった母親は、それをどう思っているのか。月子がよくやってくれるので、月子に頼る心理ならば、月子の価値感の勝ち。あくまで長女の陽子に信頼を寄せるようなら、月子のプライドも傷つく。そこまで書き込む余地はあったように思う。

【「渓と釣りを巡る短編Ⅱ」桑村勝士】
 自然と人物のなかに失われた日本の原型。炭鉱の事件があるが、何か人間がうごめいて文明と富を築いてきた過程を思い起す。

 納富さんのあとがきには、ひとごとに読めず。なにかを言うと、同病相哀れむになりそう。納富さんや、病と闘うみなさん、自分にも向けて、大事にしましょう。

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コメント

感想をありがとうございます。拙作の「……たのだろう」は、踏ん切りの悪さが出てますね。以後、気を付けます。今回は「プライド」について考えました。アイデンティティーのうち誇れるものがプライドかと。「誰かを護る力が自分にはある」と信じることもプライドのひとつと思いました。私はストーリーを創り出すことができず、最初からストーリーは意識せずに書き進んでいます。よって、全体の流れとして不充分な箇所が多いようです。

投稿: ひわき | 2011年8月27日 (土) 08時56分

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