詩の紹介 「不機嫌」勝嶋 啓太(潮流詩派226)
不機嫌 勝嶋 啓太
最近 僕は機嫌が悪い/東北関東大地震があってからというもの/父親と母親が ずーっとテレビの報道特番を/見続けているからである/別に両親がテレビを見ているのが/悪いわけではないのだが 腹が立つのは/その内容というのが/大震災ですべてを失った善良な人々が/助け合い 支え合い 明日の希望を信じて/今 小さな一歩を踏みだそうとしています/さあ 私たちも応援しましょう/この思い 被災者に届けましょう的な/安いお涙頂戴ドラマみたいな偽善的な調子で/地獄絵図の部分は 覆い隠して 見せないで/自分たちはぬくぬくと安全圏から/がんばれー がんばれーと無責任に/声援を送っているようにしか見えないからだ/作り物のメロドラマならそれでもいいけど/現実をそのような語り口で/演出しようとしてのが腹が立つ/レポーターとかコメンテーターという人種が/ウソの涙を流しながら 発する/誰にでも言えるようなバカなコメントにも/腹が立つ/また 番組の合間に流れる/公共広告機構とかいうところが作ったCMも/クソ真面目で つまらないわりに/子供とか金子みすずの詩とか出して/媚売りまくりで 押し付けがましい/まあ 所詮 テレビだからね/わかってたことだけどね/僕は腹たちまぎれに そう言うと/母親は/「そうよ テレビは私たちが見たいドラマを見せるのが 仕事だもの/見るのが辛いものはやらなくていいのよ」/と無表情に言って、お茶をすすった/でも・・・と言いかけて 止めた/僕はその時/そんなテレビの報道特番を/問句を言いながら 両親と一緒に/さっきから もう三時間も見続けて/被災者の人々のあんまりにドラマ的のドラマに/ちょっと感動したり してしまっている/自分自身に腹を立てていたのだ/ということに気付いてしまったからである
その時 自分をごまかすために飲んだお茶の/まずいこと まずいこと
紹介者・江素瑛(詩人回廊)
日ごろ感じていることを、両親を介してさりげなく指摘している。レポーターとかコメンテーターが味つけ、切り取る。編集に追われた仕事になる。仕方がないと言えば仕方がありません。もともとテレビなどマスコミは事実の断片を知らせ、それが真実をそのままとは限らない。大衆は退屈と無気力から逃れるため、悪いニュースも気晴らしとします。気分の高揚をさせるものを求めます。意図的に高揚させられた気分は、戦争さえも肯定させかねません。お茶のまずさは、自発性でなく、どこかに感動を押し付けられて、自分が利用されていることを感じるからなのでしょう。
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