詩の紹介「愛について」 作者・大坪れみ子
愛について 大坪れみ子
すでに/風はとつぜんやってくるのではなく/やわらかい木々でできた稜線を/ゆっくりなでながら/這うようにしてやってくる
風はきょうも/わたしの部屋の窓の外に到着し/いつもの顔でじっとしている
わたしは部屋のなかで/窓はあけずにいて それでいて/愛について語りあったり/時には抱きあったりもする
風は/窓の外の畑の野菜たちをゆらしたり/目をほそめ ながめたりして/そのうち/そっと 帰っていく
詩誌・「まひる」7号より あきる野市アサの会Part 2
紹介者・江素瑛(詩人回廊)
アンダンテ調でゆっくりと流れる愛の調べ、「わたし」はその流れに浮かばせて、そのそよ風に乗って・・・。
恋心をかきたてる風の喩え。愛は風のように「突然やってくるのではなく」、すこしずつ少しずつ情念を培い、柔らかく戯れながらも、「いつもの顔でじっとしている」惚れ込む。「わたし」のところにやってくるのだが、窓内の「わたし」の夢を覚ますことなく「そっと 帰っていく」シンプルで飾りのない流麗な言葉の力がある。
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