詩の紹介 「牛の生涯」 作者・小林忠明 (「新・原詩人」No36)
「牛の生涯」小林忠明
人間は勝手だ 原子力発電の安全性を強調して置きながら爆発を起こしてしまった その原因は自然災害だという 住民も発電所の町として恩恵を受けている 手前 人の災害と云えない 原発から漏れ出した放射能は五キロメートル 十キロメートル 二十キロメートル さらに三十キロメートルと拡大するばかりだ 避難命令の出た飼い主は柵を解放して遠い街に旅立った 狭い小屋の生涯から自由になったおれたちは牧草をたんまり腹に溜め込んでいる 生き物として喰わねばなんめぇ 時々 飼い主が戻り おれの腹を撫で回し 涙ぐんでいる ベコよ 放射能に塗れた草を喰わせてすまねぇな おめいたちを運ぶ暇がなかった せめて 殺されるまえにたんまり草を喰え 福島県浜通の放射能に汚染された草を腹いっぱい喰って死んでくれ 牛一頭の生命に涙ぐむのは飼い主だけだ 机の前の政治家よ 百姓の代わりに死んだおれの無垢な目玉を忘れるな 放射能塗れの野草喰うおれの無念 死んだおれは青いシートにつづまれて腐って逝くだろう 机の前の原子炉 てめぇだ
くそっ 原子炉に飛び込んで死んでやっぺぇ
2011 年6月 多摩市
紹介者 江素瑛 (詩人回廊)
これは、福島弁というものでの表現なのであろう。原発事故リスクを背負った代償にもらったお金。地域の密接な関係があるが、放射能被害はお金を貰っていない地域ににも及んだ。
飼い主と家畜の家族関係は破壊される。家畜は死んで自由になり、人間は家へ帰る自由を失う。そして、青いシートをかぶされる。それは死の自由である。作者は風刺的な筆法で、ぐんぐんと読者を引っ張っていく。
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