文芸同人誌「海」(第二期)第5号(福岡市)
【「種の起源」牧草泉】
今でも役に立つ原理が記されていて面白い。大学でマルクス主義的な生物学を学ぶ時、教授に「生物学生徒の『種の起源』読まず、マルクス主義生徒の『資本論』読まず、という定評がある。君たちは最後まで読もう」といわれたのを覚えている。ここには、著者のダーウインか、毎回表示した方が親切のような気がする。同人誌だから仲間内の私的な書き物でもいいのだが。
【「漂砂」有森信二】
学費もままならぬ農家にうまれて、苦労を重ねて大学教授の地位を得た主人公が、自立神経失調症の激しい発作に襲われる。病名的には高血圧の血圧変動による神経異常らしい。この病状は体験をしない他人にはわからない。その症状の表現は迫力がある。眩暈はその人の存在であり、人間の孤独な個性の普遍的な側面に触れて深みを感じさせる。神経バランスの偏りのある体質が、幼少時からもって生まれてあったように感じさせる。大学教授という社会的な地位は、まさしくその個性の持ち主であるのだが、その病の体質は、誰にも理解されないし、伝えようもない。物語の構造に従って、社会的な地位を失って、喪失感を出すのだが、読者には、その病が生まれて変わらず、主張する個性のもつ孤独が伝わってくる。
(「詩人回廊」編集人・伊藤昭一)
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コメント
海の作品の御紹介をいただき、ありがとうございます。
今後の励みにさせていただきたいと思います。
投稿: arimori | 2011年5月10日 (火) 20時02分