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2011年4月10日 (日)

詩の紹介 「命令」 作者・内田麟太郎

   「命令」 内田麟太郎
寒かったのか/それとも/もう気にするなと眠ったけど/あいつのことが気になっていたのか

昼寝のあとは夕方寝/それでも夜になればたちまち熟睡/朝まで眠っているおれが/今夜も目を覚ましている/あいつはいまごろ眠っているのか/それとも腹水の溜まっていく体で/天井を見ているのか/(弟が先に逝くなど理不尽ではないか)/(それも親父と同じ病で)

おれの体は6階の布団の中にある/一階はセブンイレブンで/その上に13階まで住居のマンション/寒いといっても/彼らにくらべれば天国だ/河原に青いビニールテントを張っている

(やっぱり小便だ)/起きて襖を開ければぞくりと寒さがくる/寒ければ小便が溜まる あたりまえのこと/そのあたりまえにおれは起こされたのだ/あいつのことでもない/かれらのことでもない

おどろくほどの小便をして布団にもぐれば/たちまちぐっすり寝入った朝だ/哀憐など欠片もなかった/こらえきれなくなった膀胱が/おれにいったのだ/「決起せよ!」
      詩誌「騒」第85号より 2011年3月 町田市・騒の会

紹介者・江素瑛「詩人回廊」熟睡しているのに、満タンの膀胱で目を覚ます。およそ誰にでもある経験。
心理的、病気中の弟や青いテントのホームレスのことを気にかける作者は、夜中に目が覚める。生きて行くのに身体の生理的な本能に従うのです。人間の一生は生理の本能――食べることと排出することの「命令」にまず従わなくてはならないのです。生理が精神に身体の「しもべ」であることを主張するのです。しかし、身体条件の同じであることで、他者の寒さの体験を思いやることが出来るのです。

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