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2011年3月 3日 (木)

著者メッセージ: 東野圭吾さん『麒麟の翼』のこと

 加賀シリーズの前作『新参者』を発表した後、次に書くものについて編集者たちと話し合うことにしました。自分としては、家族のあり方を問うた『赤い指』と人情を描くことに挑んだ『新参者』の両方の要素を取り入れられればいいな、と贅沢なことを考えていましたが、具体的なアイデアは何ひとつありません。とりあえず日本橋に行ってみようということになりました。
 東京に住んで長いのですが、日本橋をじっくりと眺めたことは一度もなかったからです。
 上には悪評高い高速道路が通っていますが、石造の日本橋は、歴史の重みを感じさせる立派な橋でした。特に装飾の見事さは、ため息が出るほどです。
 それらを見ているうちに、ふと思いついたことがありました。この素晴らしい橋の上で人が死んでいたら、しかもそれが殺人事件だったらどうだろう、というものでした。
 編集者たちに話したところ、すぐに食いついてきました。「それ、面白いじゃないですか。どうしてそんなところで殺されたんですか?」興味津々の顔で尋ねますが、私には答えられません。なぜそんな場所で殺されたのか? それをこれから考えなきゃいけないわけです。
 一体なぜだろう。彼あるいは彼女に何があったんだろう。私は何度も日本橋に足を運びました。そのたびに見上げたのが、橋の中央に設置されている麒麟の像です。繁栄を象徴する架空の動物ですが、この像にはさらにオリジナリティがあります。本来の麒麟にはないはずの翼が付けられているのです。
 ここから全国に羽ばたいていく、という意味を込めて付けられたそうです。その由来を知り、二つの言葉が浮かびました。一つは「希望」、そしてもう一つは「祈り」です。今回の物語では、その二つの言葉に思いを馳せる人々を描こうと思いました。
 帯には、「加賀シリーズ最高傑作」と謳っていることだろうと思います。その看板に偽りなし、と作者からも一言添えておきます。『赤い指』と『新参者』を融合させられたのではないか、と手応えを感じています。   (東野圭吾)(講談社『BOOK倶楽部メール』 2011年3月1日号) 

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