詩の紹介 「二つに裂かれた夜 石黒 忠
同じ夜のぼく いまと近未来」
「二つに裂かれた夜 石黒 忠
同じ夜のぼく いまと近未来」
真夜中/シルビー・バルタン/音量を絞り/照明を落とし/耳だけをそば立て/ノゾキカラクリを覗く/隠微な身振り/潜入者のように隣室に気づかれまいと/息を殺す/ぼくの不在の虚を衝いて/深夜放送に占領され/窓にはハーケン・クロイッツの小旗
熱中する行為を/取り上げられた年寄りの/「冷や水」も/いまでは/明け方に火傷するほどに加熱する/睡眠中に体温が上昇し続けついに/脱水症状に到る/みとる人もなく/何日も発見されず/僅か数行の死亡記事/太陽にいちばん遠い時間帯に/ふとんを抱くように日射病
「騒」第84号より 2010年12月 町田市・騒の会
(紹介者「詩人回廊」江素瑛)
年寄りは、退屈な昼間の現実から夢幻の夜中が来ると、懐かしいシルビー・バルタンや、ナチスの時代が戻ってくる。前向きの姿勢が壁にあたり、思い出に耽る時間がだんだんと長くなる年寄り。誰にも構われない一人占めのできる夜中は、年寄りにとってわがままが効く楽しい時間であるが、熱中し過ぎないように、火傷にご用心。不眠症にもならないように、深夜放送でなく昼間にもネットのYOU TUBE を検索するといい。わが青春が戻ってきますよ。熱中する行為こそ年寄りの残った原動力であり、「第二の春」と言わないで、第三、第四の春でも頑張っていけると思います。
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